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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)168号 判決 1996年3月15日

主文

原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人に対し、八二五万八九〇〇円及びこれに対する平成四年九月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

4  この判決は、第一項の1に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、九一〇万八九〇〇円及びこれに対する平成三年八月三一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるところ、原審が控訴人の請求を全部棄却したので、控訴人が控訴の申し立てをしたものである。

原判決二枚目表四行目の「相続した」を「単独で相続した」と改め、七行目と八行目の間に次のとおり加える。

「4 本件土地は市街化区域内に存在するところ、被告は、右依頼に基づき、原告に代わって本件申告をしたが、本件土地が市街化調整区域内に存在するとの前提の下になされた過少申告であったため、原告は八尾税務署長から平成四年八月二一日付で相続税の加算税の付加決定処分を受け、過少申告加算税五五六万九〇〇〇円、延滞税二六八万九九〇〇円(以上の合計は八二五万八九〇〇円)の納付を命じられて同年九月二一日これを納付した。」

第三  争点に対する判断

一  税理士は税務に関する専門家として、納税義務者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする専門職であるから、納税者から税務書類の作成や税務申告の代行を委任されたときは、委任の趣旨に従い、専門家としての高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負うものというべきところ、相続税の申告にあたっては、相続財産である土地が市街化区域内にあるか市街化調整区域内にあるかによって課税価格が大きく異なってくるのであるから、相続税の税務書類の作成や税務申告の代行の委任を受けた税理士としては、相続財産である土地がそのいずれの区域内にあるのかを正確に調査確認すべきであり、また、《証拠略》によれば、柏原市役所の都市計画課で一通七〇〇円で販売されている柏原都市計画図を見るか、所轄の税務署で尋ねることにより、その点についての調査、確認はきわめて容易であったことが認められる。ところが、被控訴人が、そのような調査、確認をしないまま、本件土地が市街化調整区域内にあるものとして過少な申告をしたことは被告の明らかに争わないところであるから、被控訴人がその受任義務を処理するについて、専門家たる受任者としての注意義務の懈怠があったことはこれを否定することができないというべきである。

もっとも、この点につき被控訴人は、控訴人の母にその点の調査を指示し、市街化調整区域内にあるとの報告、説明を受けたので、これを信じて本件申告をしたものであって、なんら注意義務の懈怠はない旨主張し、被控訴人本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分が存在するけれども、そのような指示を受けて誤った説明をしたとされる当の本人である証人浅野繁子は、これを全面的に否定する旨の証言をしており、両者はいわば水掛け論の形となっているのみならず、繁子の証言には特に不自然で前後の状況に整合しないような点は見当たらないし、他方、被控訴人の右供述をより信用すべきものと認めるに足りるような事情や状況が存在するわけでもないので、右供述のみを採用して被控訴人主張のような事実を認定することはとうていできないといわざるをえず、他に、これを認めるに足りる証拠は存在しないから、被控訴人の右主張は採用の限りではない。

二  以上によれば、被控訴人には本件委任契約に基づく受任者としての注意義務を懈怠した債務不履行があり、そのために控訴人は過少申告加算税及び延滞税の合計八二五万八九〇〇円の支出を余儀なくされ、同額の損害を被ったものというべきである。しかし、本件訴訟の追行のための弁護士費用については、右債務不履行と相当因果関係に立つ損害にあたるものと認めるのは相当でない(なお、契約関係にある当事者間において契約に関連して生じた損害の賠償については、契約法理に従ってその義務の存否を判断すべきものであるから、右弁護士費用が不法行為に基づく損害であるとしてその賠償を請求することはできないというべきである。)。

三  そうすると、控訴人の本訴請求は、八二五万八九〇〇円及びこれに対する前記の加算税等の納付の日の翌日である平成四年九月二二日から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度で正当であり、その余は失当であって、これを全部棄却した原判決は右の限度で不当であるから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 辰巳和男 裁判官 楠本 新)

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